« イノトモ LIVE at 京都 SOLE CAFE | メイン | 高校演劇'14~演じる高校生編~ »

高校演劇'13〜兵庫県大会編〜

2013年の県大会は、近畿大会が独自大会ということで、いつもより1週遅れの日程でした。
近畿総文が今年は三重なんですって。

そんな、第57回兵庫県高等学校演劇研究大会・中央合同発表会の会場は、明石市西部市民会館。
今年は但馬支部も復活して、──でも、西播支部と東播支部の枠が1校ずつ減って、全14校の公演です。枠が減った分、少し余裕が生まれた大会でしたが(でも、昼休みの短さは変わらず!(笑))、やっぱり、ちょっと残念かな。

いえいえ、そんなことを言ってはいられません。
なかなか充実した大会だったのですよ!

■滝川第二『志望理由書』
舞台上の密室という面白さ。

しっかりとしたドアにより切り取られた空間
幕が上がると、地絣で区切られた空間に、机と椅子、そして、ドアのみというシンプルな配置。そのシンプルな舞台配置に、思わず息を呑みます。ちゃちっぽくない枠と扉のみのドアが、否応なしに期待を膨らませます。
その部屋はある高校の進路指導室。推薦入試の推薦許可をもらうため、志望理由書を書いてやって来た空。担当の指導教諭、大村先生からは「これでは推薦はやれん」と一蹴され......。

ちょっと変わった、でも、ある種の信念を持った大村先生と空のやりとりの妙。
密室空間と言うこともあり、その面白さに引き込まれていくのが第一場か。しかし、その密室に集約しないことと、音に対する違和感が気になるのが前半。

音の使い方や暗転には、まだ一考の価値ありか、と思うものの、後半に行くに従って、密室で変わっていく二人の関係性に魅了されていく。
完璧ではないものの、個人的には好きな作品。
最後の余韻の持たせ方、良かったなぁ。


■県立神戸『ソーニャ姐さん』
二人芝居でここまで出来るか!

3人目の部員はいなかった、2人芝居
タイトルを見ただけでわかる人にはわかってしまう、上手い名付け方。
舞台は演劇部の部室。ひょんなことから北海道の"ナントカハウス"でチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を演じることになり、「何とかなるんちゃう?」と練習をはじめた演劇部。部員は、チェリーとハルのたった二人。

実は、幕開きにかかった曲に違和感を覚える。それこそが、演出の狙い。
その違和感は、継続的に、『ワーニャ伯父さん』の練習や、チェリーとハルの何気ない会話乗り越えながらも続いていく。決して大きくなく、意識するほどでもないのが──つまり"ちょっと変だねー"程度なのは──、演出の妙だったのか。

チェーホフを題材にしながらも、等身大の高校生を演じたこの作品は、"こんな作品をやりたい"と思わせる。もう一度、演劇に向かおうとさせてくれるだけのパワーを持っていた。
その丁寧な演技は、大会一だったでしょう。


■賢明女子『GIRL・GIRL・GIRL』
優秀賞に入らなかった優秀作!

「どっきりカメラ」という収拾の仕方
おそらく自分たちの学校が舞台となっていると思われる、そんな創作台本。
今大会一の大がかりな立体的な舞台装置の上を縦横無尽に駆け回る女子高生たち。テンポ良く駆け巡りながら、彼女たちの言葉が零れてくる舞台。とても好感が持てます。こういう爽やかさは、兵庫のテイスト。

正しいことが、常に正しいとは限らない。
中盤、事件を巻き起こすのは、正直者の宮野さん。佐藤一香(いちか)に想いを寄せるは、そのクラスメイト。その告白を目撃した宮野さんは、その事を大いに応援するが、そこは女子校。大事件に発展し──!
好きな気持ちは「正しい」と言い切る宮野さん。じゃあ、キリスト系の学校に通う私たちにとって、「同性愛は正しいの?」と問うクラスメイト。
そんな女子高生目線で切り取った作品。

ただし、エピローグはちょっと長すぎた。
全てを語らず、観客に想像させることも大事な要素なのです。


■県立武庫荘総合『BEST ~壊れかけの部室~』
な、な、なんと、一億円の札束がッ!!

一億円ではしゃぐ4人
幕が上がって、舞台装置はいつもの武庫荘総合という感じ。
細かいところまで作り込まれた今回は、長年開かずの間だった演劇部の部室。十年ぶりに再開するOB4人と、そこに居合わせたオカルト好きの女子高生。
廃校が決まり、取り壊しが決まったその部室にやって来た4人には目的があった。演劇部の部室には、十年前に拾った一億円がしまってあったのだ。

この一億円の札束が登場した時の衝撃は凄まじい。本物のハズはないのだけれど、その札束という生々しさが、客席に緊張感を生みます。それは、彼女たちが考えた台本以上のパワーを持っていたのです。
つまり、残念なのは、役者たちの演技、台本の内容が、一億円の札束に叶わなかったこと。
外部からの視点があれば、全然違う内容の作品になったろうな、という感じはします。客席にいてさえ、偽物であるとわかっていても、それほどの魔力がある。
そんな札束に対して、そんなに冷静でいられるだろうか?

それでも、今まで観た武庫荘総合の中で、一番良かったかもしれません。
というのは、舞台が演劇部の部室だったからか、物語が地に着いていたような気がします。演じ手側も落ち着いていたしね。
まぁでも、よく一億円の札束を出そうなんて考えついたなぁと感服です。


■県立宝塚北『ファントムペインに血は流れるか』
演劇科の実力派如何に?注目の宝塚北!

出会った二人の哀しい結末
意外なことに、私が初めて観る学校、それが宝塚北。
演劇科のある唯一の学校だけれど、どうやら演劇科の生徒はあまり演劇部で活動していなかったらしい。しかし、今年は違う。幕が上がると、今まで県大会で観なかったとは思えないくらい、不思議な、そして専門的な舞台が広がっていた。

台本もしっかりしているし、演技も、「演技力」という言葉でまとめれば、大会一二を争うくらい。
ただ難点を言えば、若干エンタメ系に流れてしまっていることと、演技力があったからこそ目立ってしまった殺陣の出来。やはり同じスピードで殺陣を繰り出さないと、どうしても見劣りがしてしまう。もしくは、別のアイデアが必要だったか。
そして、"これ"という決め手にも欠けたかも知れない。
つまりそれは、観客の懐へ切りこむ刃か。

いずれにせよ、これからがとても楽しみな宝塚北なのです。


■県立加古川東『Happy Together』
幕開きダンスのインパクト大!

シリアスなシーンもあったのだけれど......
幕が上がって、はじまるのは、クマノミのダンス。
しかし、観客は「クマノミ」とまだわかっていないわけで、ここはどこ?竜宮城?状態から、突然のイソギンチャクの登場に驚かされる!それがまさか、学校の共有スペースで行われていた、生物部による子どもたちへの授業の練習だったなんて。

そんな遊びは随所に散りばめられていて、観客を楽しませながら、舞台は進んでいきます。
生物部の部員にも、生徒会長にも、バレー部の部員にも......、それぞれ思うことがあって、ボタンの掛け違え。うまくいかない。距離が開いていく。

そんな中エピローグは突然、入学式の日に逆戻り。
あれれ?なんだか置き去りにされた気分。
もう少し、各個人のエピソードを掘り下げられたら、そんなことも無かったのかも知れない。台本と言うより、演技演出面での掘り下げがあったなら......。
背景が見えそうで見えなかったのが、残念な部分。
惜しかったなぁ。




去年までの低調ぶりはどこへやら。見事復調を果たした今大会。
阪神支部や神戸支部に媚を売るつもりはないのだけれど、そればかりになってしまったのは共に面白かったから。全体的にレベルが上がっており、他にも注目すべき作品はいくつもありました。
ただ、欲を言えば、突き抜けた作品はなかったか。
今年の最優秀賞はいずれも顧問創作。そんな感じの大会だったのだと。

兵庫県大会で最優秀賞を獲得した滝川第二の『志望理由書』と県立神戸の『ソーニャ姐さん』は、12月27日(金)と28日(土)に行われる近畿大会で上演されます。
今年の会場は滋賀県・しが県民芸術創造会館だそう。
上演順などはごのいワールドさんで確認できます。

コメント

» 一演劇ファン

盲目の少女、透明人間、軍人、新兵器、砂丘・・・野田秀樹・・・。

» snow

初めまして。
私も兵庫県大会を一部観劇しました。
YOUさんの率直な感想が好きです。

» YOU

> 一演劇ファンさん

『ファントムペインに血は流れるか』ですね。
野田秀樹というワードは専門審査員の方からも出てきましたが、個人的にはそんな印象は受けませんでした。
野田作品は一つ二つ観た程度ですので、何とも言えませんが……。

» YOU

> snowさん

コメントありがとうございます。
私はいつも“つくる側の人でありたい”と思いながら観ています。だから、そんな感じの感想なのですよ。

» snow

早速、コメ返ありがとうございます。

「ファントムペイン・・」に関して、
私もYOUさんと同じ意見でした。
殺陣は稽古不足かな? 一人だけ上手でも駄目。皆がスムーズに動けないと。
役者の力が必要とされる作品だったと思います。今後が楽しみです。

» YOU

> snowさん

そうですね、稽古期間があと1週間でも2週間でもあれば、違った印象になったかも知れませんね。
そういった底力は持っている作品だったと思います。

コメントを投稿

※ 初めてコメントする時は、YOUの承認が必要になる事があります。その際は承認されるまでコメントは表示されませんので、しばらくお待ちください。


トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
https://www.blog-mt-kanri.yoused.jp/mt-tb.cgi/134

アクセス

TOTAL:
TODAY:
YESTERDAY:
05467
00005
00049
since 2007.2.6.

February 2021

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28            
Copyright YOU, All rights reserbed.