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高校演劇'12〜兵庫県大会編〜

揖保川のほとりに立つアクアホールが今年の県大会の舞台。
第56回兵庫県高等学校演劇研究大会・中央合同発表会です。

阪神支部のピッコロシアター、東播支部の明石市西部市民会館、そんな中で比べると、最も静かなホールかもしれません。
観客席の雰囲気も、いくらか控えめです。

昨年の反動で、今年は是非とも3日間観劇したい!と行って参りました。
いつものように15校の上演中、気になった作品をピックアップします。
(※但馬支部よ、私は復活を待ってるぞ!!)

ちなみに、近畿大会上演校もありますから、読まれるかどうかはお任せします。


■六甲学院『カガクの子』
今年も客席を最もホットにさせたのは六甲です!

熱暴走のアトムを冷却せよ!左端の執事みたいなのはルンバ(笑)
タイトルから漂う匂い。そこから派生させたものをみせてくれるのがいつもの六甲。そこは裏切りません。
近未来の日本。人型の介助用ロボットのパピーウォーカーとして選ばれた天馬家。お父さんはそのロボットを「アトム」と名付ける。

まず初めに面白いな、と思わせたのはルンバです。そう、あのお掃除ロボットのルンバ。それが人型に進化している!人型である必要があるのか無いのか、もちろん無いわけですが、「人はコミュニケーションを求める」そんな言葉に風刺を感じさせます。
命令通りに動くロボットであって、命令に忠実。「ツンデレモード」なんていうお遊びも装備(笑)。
電源を抜かれて徐々に崩れていく様子は、会場の笑いを誘います。

いえいえ、話の中心はアトムです。アトムと、預けられた家族。お父さんとツトム。

でも、思ったんですけど、お母さん。この話ではお母さんは一切語られません。
それは天馬家ではタブーなのか。死んだお兄さんより気になります。
男子校なので女性が出てこないシチュエーション。それが六甲のスタイル。けれど、2年前の『6人くらいのどっちつかずの男たち』では、いかにも女性が出てきそうで、そんな女性の雰囲気を醸し出していた。
そういう演出が、今回できなかったのかなぁ?と、もちろん、難しい注文であるのはわかっていながら、思ってしまいます。
作品に奥行きを出す、という意味で。

そうだなぁ、アトムの起こす事件は面白いのだけど、家族の物語。これは、家族の物語なんだよなぁ。


■県立伊丹西『らいふ・らいん』
これは完全暗転できる劇場で観たい作品!

光量を落としての幕開きは、伊丹西の定番スタイル!?箱馬のLEDが光ります!
LINE』って知ってます?Androidなんかのスマートフォンで人気のアプリですね。私は使ってないけど。

そんなバーチャルな世界で繰り広げられる舞台は、照明が印象的。いいえ、舞台装置と照明で、舞台空間を支配している、というべきか。つまりは、その親密度を増すために、真っ暗な劇場、完全暗転可能な劇場で観たい、というのが本音。どうしても客席誘導灯(足元の明かり)が気になってしまいます。
TwitterじゃなくてLINE、ネット上で繋がるという感覚。それを肉体的に表現する。
一見意味の無いようにに置かれた装置(=箱馬)にも規則性があって、物語中盤付近でさりげない演出があります。

この見せ方は、ぶっちぎりのナンバー1。もしかしたら、近畿地区でもトップレベル。

だけどちょっと物語が綺麗すぎる。そんな気もします。
終盤にかけての収束。どうすればいいのか。もちろん、それは作者も悩んだことでしょうから、これがベストなのかもしれません。
その辺の意図、こっちが掴み損ねたかな?


■県立西宮『こんな感じでオープンハイスクール?』
阪神支部のお芝居は安定感があります。それを感じさせた初日のお芝居!

人が多くても演技がおざなりにならないのが阪神クオリティ!
久し振りの県立西宮は、オープンハイスクールの前日に行われるリハーサルの話。なので舞台は講堂の舞台、シンプルでいてもリアルを感じさせる設定。
今回の県大会では甲南女子が越智さんの『七人の部長』を上演していました(余談だけど2007年にも甲南女子は同作品で県大会に来てる(笑))。それで気がついたのですが、『七人の部長』っぽい設定です。生徒会長と選ばれた生徒たちが、先生たちの意図した通りのオープンハイスクールを演出しようとする。だけど、うちってこんな学校だっけ?そんな疑問から始まるお話です。

県立西宮高校がどんな学校なのか、舞台上で暴露されていきます(笑)
たまたま私は、西宮高校の前を歩いたことも、音楽科があったりすることも知っていて、ちょっと興味があったので楽しく観ることが出来ました。国際経済科とか“へー”って。普通科の高校だと思ってました。
けど、特に興味がなかったらどうなんだろう?

そう考えたら、一歩足りないところがあるかもしれませんね。
もうちょっと生徒の本音に近いものも欲しかったところですし。個人的にはそれが物足りなかったかなぁ。


■県立東播磨『祐一、ニートやめるってよ@池町商店街』
東播磨は部員が爆発的に増えていたっ!

今年の流行の一つは戦隊もの!(笑)
2年前の県大会『演奏隊?何それ?』では3人芝居だった東播磨が14人に大増量です!
それが良かったかというと、そうはならないのがお芝居の難しいところ。じゃあ何で東播磨を取り上げるのか?と聞かれたら、東播磨の従来のスタイルが好きだから。

緞帳が上がって見えてくる舞台装置。それを見た瞬間に感じたのは“自分たちのスタイルを捨ててきた”ということ。(写真は転換後の舞台)
でも、正確に言えばそうではありませんでした。自分たちのスタイルは踏襲しつつ、──なので、少し大人な東播磨?でも、上手くいっていたかというと少し微妙。

音楽に合わせて軽快に明転で舞台転換する。そして、一人二役演じる。このスタイルは東播磨の武器。
しかし、今回は人数が多すぎた、というのがあるのでしょう。

いつもの東播磨スタイルに持って行き、登場人物も削って物語を純粋化していれば、かなり良かったと思うんですよ。
部員が多くいればキャストで使いたい気持ちもわからないではないけれど、結局多くを出したがために、そしてそれぞれに多く語らせてしまったために、薄れてしまった部分があるのです。


■県立西宮南『白紙』
「シロガミ」だと思っていたら、「はくし」でした。

シルエットのストップモーションは正直上手い!空間把握のたまもの!!
白紙にまつわる三つの話で構成。
舞台の使い方のうまさは、さすが阪神支部。ピッコロシアターが本拠地だけあります。だけど、センターの前が死んでいるのが気になったり。これは使わないのが正解なのか、使うように改善すべきなのか?

まず最初の話はとてもどぎつい。
いじめられた子が誰にも相手をしてもらえず、先生にさえ見放され、ついにはいじめっ子を刺してしまう。
言葉にすればこれだけだけど、もちろん、本物の舞台はもっと奥行きがあります。

けれど、その後の二つの話が、観客の想像の範囲から脱却しない。
最初の話でパワーが失速した感じ。
“ああ、そうだよね”って観客が同意するお芝居もアリだけど、個人的にはここは、最後にもう一度裏切って欲しかった。なんでも良いからどぎついのをもう一発。もちろん、最初よりもどぎつくなければインパクトはない。

私がタイトルを「シロガミ」だと思ったのも、実はそこで、パンフのインパクトは凄いのです。
パンフから連想して「シロガミ」と読んだ。赤紙に対する「シロガミ」のようだけど、おそらく違う。もっと違った何かが「シロガミ」にはある。




今年の県大会は少し低調でした。
3日間観てきたけれど、肩透かし的な感じがします。

ほとんどの舞台に共通することでしたが、演技をするテンションになり得ていない。それさえクリアすれば、もっと良いお芝居になるのに。と。
嘘を嘘として演じていてはダメで、舞台に立つ人間は、それを本当だとして、その真剣さがいる。だから、観客に“これはお芝居(嘘)だからなぁ”なんて思わせてはいけない。自分たちの舞台(世界)へ、引っ張り込まなきゃいけない。

ここに書いているのはすべて個人的な意見ですけど、私はそう思います。

兵庫県大会で最優秀賞を獲得した西宮南の『白紙』と伊丹西の『らいふ・らいん』は、明日11月23日(金・祝)から25日(日)まで和歌山県・粉河ふるさとセンターで行われる近畿大会で上演されます。
上演順などはごのいワールドさんで確認できます。

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